ディスコグラフィ   シカゴ(30)

CHICAGO XXX (2006/3)
CHICAGO

曲目 シカゴXXX(サーティ)
シカゴ
総評

試聴♪

Produced by JAY DEMARCUS

曲目
01 FEEL (Hot Single Mix) フィール (Hot Single Mix)
02 KING OF MIGHT HAVE BEEN キング・オブ・マイト・ハヴ・ビーン
03 CAROLINE キャロライン
04 WHY CAN'T WE ホワイ・キャント・ウィ
05 LOVE WILL COME BACK ラヴ・ウィル・カム・バック
06 LONG LOST FRIEND ロング・ロスト・フレンド
07 90 DEGREES AND FREEZING 90ディグリーズ・アンド・フリージング
08 WHERE WERE YOU ホエア・ワー・ユー
09 ALREADY GONE オーレディ・ゴーン
10 COME TO ME, DO カム・トゥ・ミー、ドゥ
11 LOVIN' CHAINS ラヴィン・チェインズ
12 BETTER ベター
13

FEEL (The Horn Section Mix)

フィール (ホーン・バージョン)
総評

シカゴの30作目となるニュー・アルバム『XXX』(呼称:サーティないしトリプル・エックス)がついに発売されました!!


アース・ウィンド&ファイヤーとのジョイント・ツアーを終えたシカゴは、2004年11月頃、話し合いの場を設けます。アースは近年も新譜を製作し、精力的に活動していますが、この圧倒的なパワーの前にシカゴの面々も感化されずにはいられなかったと思うのです。

そして、シカゴは、プロデューサーに、ラスカル・フラッツのジェイ・ディマーカスという人物を迎えました。この起用は、ジェイ・ディマーカスとシカゴのジェイソン・シェフの個人的な関係に基づいていると思われます。

まず、ラスカル・フラッツは今、全米で絶大な人気を誇るカントリー風ボーイズ・グループです。メンバーは、ゲリー・リーヴォックス(ヴォーカル)、ジョー・ドン・ルーニー(ギター)、そして、ジェイ・ディマーカス(ベース)の3人からなっています。メジャー・デビューは2000年。中でも、2004年に発売されたアルバム『FEELS LIKE TODAY』が、ビルボードのアルバム・チャートにおいて見事第1位を獲得するほどの人気振りです。しかも、シカゴの『XXX』が発売された直後にリリースされたラスカル・フラッツの最新アルバム『ME AND MY GANG』は、なんとビルボードのアルバム・チャート初登場第1位(!)を記録しています(2006年4月22日付)。いやはや・・・。 


左から、ゲリー・リーヴォックス、ジョー・ドン・ルーニー、ジェイ・ディマーカス

彼らの公言は、80年代のミュージック・シーンに大きな影響を受けているというものです。実は、その中の1つにシカゴが含まれているのです。

しかも、2004年11月20日に行われたラスカル・フラッツのコンサートには、シカゴのジェイソン・シェフがゲスト出演しています。ジェイソンは、このとき、"WILL YOU STILL LOVE ME ?"と"HARD TO SAY I'M SORRY"を彼らと一緒に歌ったのだそうです。同じベーシストということもあって、以降、ジェイとジェイソンはプライベートでもずっと親交を保ってきたといいます。

それにしても、このジェイ・ディマーカス起用の報に触れたとき、一体どれだけのシカゴ・ファンがラスカル・フラッツのことを知っていたでしょう?カントリーというジャンル分けをされているために、海外の一部では「シカゴがカントリーになっちゃうの?」という声さえ聞かれたほどでした。製作から発売までわずか1年強の短い期間でしたが、今となっては隔世の感があるといってもいいくらい、私も彼らの知識が増えました。

一方、ジェイは、本当にシカゴのことを熟知しているのです。ここで、それを証明すべく、他ならぬジェイ・ディマーカスその人のコメントを引用しておきたいと思います。

オーライ、みなさん。みなさんの不安を鎮めに来ましたよ。シカゴの新作は、どこをとってもカントリー・アルバムではありません。100%シカゴです。掛け値なしの。私の業界人生の中で、これほどお互いを尊敬し合いつつ、かつ、才能にもあふれているグループと仕事を共にしたことは、一度だってありません。今回のプロジェクトを指揮する立場にあったことは非常に名誉なことですし、すぐにでもまた次回作を手掛けたいと思っているくらいです。

私は(まあ、さすがに肩入れしてしまいますけど)、このアルバムは、バンドの音楽性についてみなさんが抱いている期待を凌駕するものと考えています。彼らが38年以上経った今でもなおロックであり続けていることを、私はまざまざと見せつけられました。それは、信じられないくらい幅の広い作品であり、そして、作詞面から演奏面、アレンジ面に至るまで、みなさんを惹きつけるアルバムとなっています。

私は、この『XXX』をプロデュースできることを誇りに思っています。そして、断固として言いたいのは、シカゴは語り尽くせない、ということです・・・

―――ジェイ・ディマーカス

また、発売日前日に、わざわざ海外の掲示板に以下のような感想も寄せてくれました。

『CHICAGO XXX』の発売を明日に控え、ここに座っていると、なんだか皆さんにありがとうと言いたくなりました。このバンドに対する情熱に燃えるすべてのファンに。コメントはいつも楽しく拝見しています。シカゴの音楽と向き合う熱狂的な姿勢を本当に素晴らしいと思っています。このアルバムを製作できたことは私にとってこの上ない名誉なことでした。私は心底こう願っています。すなわち、“シカゴのどの面が好きな人でも”、このCDを楽しんでいただけるであろう、と。

さあ、今週を、バンドの長い歴史の中でも最高の1週間にしましょう!シカゴがまだ必要とされていることを世の人に知らしめてやるのです!皆さんに神の御加護を。そして、最後に1つ。間違ってもカントリー・アルバムじゃありませんからねっ!!

―――ジェイ・ディマーカス

とにかく、この『XXX』を手に取ってもらいたい、私はそう思います。

ところで、ジェイ・ディマーカスら関係者たちが今回の新譜にかけた意気込みは、「Back on the radio!」というキーワードに集約されると言っていいでしょう。つまり、再びラジオで盛んに取り上げられるような曲を作ろう!ということにありました。現に、アルバムからのファースト・シングル"FEEL"は、アダルト・コンテンポラリー・チャートですが、久し振りということを考慮に入れれば、なかなか健闘しています。


また、このジェイ・ディマーカスの人選が如何に適切であったかは、ホーンをしっかりと組み込んだサウンド作りはもとより、シカゴのメンバー主導で曲を共作させたために、各自の個性・主張が手に取るように分かることからもうかがえます。そう、何より歌詞の内容が分かりやすいのです!これはリスナーに伝わりやすい要素です。


以下には、この『XXX』と過去のアルバムとの関係をまとめておきます。


『XXX』と過去のアルバムの関係ついて

■新曲入りのアルバムとしては3年振り

シカゴの新曲入りアルバムとしては、『CHICAGO CHRISTMAS 〜 WHAT'S IT GONNA BE, SANTA ?』(2003年)以来“3年振り”のことになります。しかし、このアルバムはクリスマス用の企画盤でした。メンバーが書いた新曲といえば、ビル・チャンプリン夫妻が関わったクリスマス・ソング"BETHLEHEM"のみで、あとは伝統的な曲ばかりを集めていました。

■企画物でない新曲を含むアルバムとしては7年振り

上記のような企画物ではなく、一般的な新曲を収録したアルバムということでは、"BACK TO YOU"を収めた『CHICAGO XXVI LIVE IN CONCERT』(1999年)以来“7年振り”ということになります。しかし、このアルバムの主軸はライヴ盤であり、"BACK TO YOU"も追加収録された3曲の新曲(スタジオ録音)のうちの1つという扱いにすぎませんでした。

■全曲新曲のアルバムとしては実に15年振り!

ということで、結局、企画盤でもなく、ライヴ盤でもなく、“全曲スタジオ録音された新曲”で構成される新作としては、『TWENTY 1』(1991年)以来、実に“15年振り”ということになりそうです。もっとも、全曲新曲のスタジオ録音という点では、『STONE OF SISYPHUS』(1993年製作、1994年発表予定)以来13年振りということになりますが、このアルバムは正式にはリリースされませんでした。そのため、通常は『TWENTY 1』からカウントして妨げないと思います。

『XXX』の歌詞

『XXX』の感想

『XXX』アーカイヴズ

01
FEEL (Hot Single Mix)
フィール (Hot Single Mix)
DANNY ORTON BLAIR DALY

アルバムからのファースト・シングル。

2月14日、アダルト・コンテンポラリー・チャート向けにシングル・カットされました。しかも、ロバートのメイン・ヴォーカル・シングルは"TAKE ME BACK TO CHICAGO"以来、実に28年振りという戦略を張ります。

ところが、本曲はシングル・バージョンと銘を打っているものの、実際、各ラジオ局に配布されたプロモーション用のCDシングルも全くこれと同一のものなのかについては判然としません。というのは、ストリーミングに供されていた曲は、そのほとんどが13曲目のアルバム・バージョンの方だったからです。しかも、聞けば、配布されたプロモ用シングルとの間には表記上若干の分数の違いが認められるというのです。この辺りの扱いは、残念ながら、結局よく分かりませんでした。

なお、13曲目のアルバム・バージョンとの違いは、ホーンが使用されていないことと、後半の≪Feel......≫という部分に係るコーラスがないことなどにあります。

シカゴのシングルはとにかく久々。確認できるだけでも、98年の"ALL ROADS LEAD TO YOU"以来。しかし、このときは主要な分野にはチャート・インしませんでした。チャート・インの記録ですと、その前年97年の"THE ONLY ONE"まで遡ります。こちらはアダルト・コンテンポラリー・チャートでしたが、第17位まで上がっています。なお、この両シングルは日本でもマキシ・シングルとして当時日本盤がリリースされました。

ちなみに、本曲"FEEL (Hot Single Mix)"のチャート成績は、以下の通りです。

ビルボード、アダルト・コンテンポラリー・チャート
「Adult Contemporary」 最高位第19位
「Hot Adult Contemporary Tracks」 最高位第19位(4月22日付)

ラジオ&レコーズ、アダルト・コンテンポラリー・チャート
「AC」 最高位第20位(4月14日付)


ところで、この"FEEL"がファンの前に初めて紹介されたのは、2005年9月23日、ラスベガスのスターダスト公演においてでした。アース・ウィンド&ファイヤーとの2年にわたるジョイント・ツアーが一息つき、このラスベガスでは、シカゴの単独公演が再びスタートします。当然、『XXX』からの曲も聴かれるだろうと多くのファンが期待していたところでした。しかし、4日連続公演の2日目までは、従来通りのセットリストに終わり、ファンを失望させていたのです。ところが、3日目にして、突如として、この"FEEL"を演奏したのです。もちろん、ホーンありです。予告なしの演奏にオーディエンスは度肝を抜かれ、まさに興奮の坩堝状態。レパートリーが平板化していた時期だけに、この驚きは想像以上に大きかった模様です。

私自身、この曲に最初に接したときは、もう涙、涙・・・で話になりませんでした。「これが、自分が長年追いかけて来たバンドの新曲なんだ!」と。「まさにシカゴのファンで良かった」と思った瞬間でした。


さて、本題の曲の印象です。

まず、作者は、ダニー・オートンとブレア・デイリー。このうち、ダニー・オートンは、下記写真の中央の人物だということです(ドウェイン・ベイリーの情報による)。この2人は、『XXX』が発売された直後にリリースされたラスカル・フラッツの最新アルバム『ME AND MY GANG』にも、曲を提供しています。

出だしは、ロバート・ラムのヒップホップ調の語り口。これには一瞬戸惑うほどの衝撃を覚えました。近年のロバートのソロ作品でもここまでのものはありませんでしたから。

しかも、内容面においても、通り一遍のラヴ・ソングとは一線を画しています。私は、ヒューマニズムあふれる楽曲だと感じました。海外のファンの意見も全く同じです。つまり、歌詞を見ると、愛がどうのこうのというよりも、むしろ、何かこう勇気付けられてくるようなものがあるのです。

≪キミのハートは冷え切っている。心も麻痺している。キミは今の自分が好きじゃないんだね。キミはゲームをしているのさ。それも、十分すぎるほどにね≫。

≪キミはハッピーなのか、悲しいのかすら分からない。善悪の区別さえもつかない。感覚がないのかい?自分の感覚をないがしろにしちゃいけないな≫。

≪頭で考えるのは、もうやめにしよう。その代わりに、ハートを使うんだ。やってごらん!きっと気に入るはずさ!≫。

たしかに、無味乾燥な恋人を皮肉ったようにも映りますが、その奥底には、無機質な現代人へのアンチテーゼが秘められているとさえ思われてくるのです。未来は明るいんだよ!生身の人間らしく行こうよ!といった人間ならではのぬくもりを感じずにはいられないのです。

まさに、新世紀のシカゴの冒頭を飾るに相応しい傑作です!

歌詞

02
KING OF MIGHT HAVE BEEN
キング・オブ・マイト・ハヴ・ビーン
GREG BARNHILL JASON SCHEFF DENNIS MATKOSKY
後悔の歌。

≪might have been≫とは、これで一綴りの名詞で、≪過ぎてしまった可能性≫などを意味します。私は、≪王様になり損なった≫くらいのニュアンスに受け取りました。

≪彼女が自分に与えてくれればくれるほど、自分はそれが当然のことのように思ってしまった≫。しかし、彼女との仲は、≪本当に終わってしまった。僕は2度と手に入れられない愛なくして生きていかなければならない。これの意味するところは、つまり、すべてを失ったということだ。ああ、僕は王様になり損なったんだ≫。

なお、この曲は、本アルバムから一番先にファンに披露された曲だと思われます。つまり、2005年5月に行われた朋友デニス・マトコスキーのミニ・ライヴに参加したジェイソン・シェフは、そこで早くもこの曲を披露しているのでした。

それもそのはず、ジェイソン・シェフのブログによれば、この曲は、もともと前作『ラヴ・ソングス』に付加するためにジェイソンたちが製作していたものだということです。しかし、当時は、新曲を最終仕上げするだけの時間がなく、結局、アース・ウィンド&ファイヤーと行ったライヴ音源を追加するという形に終わってしまったそうです。このときのジェイソンの落胆は相当なものだったようです。しかし、こうして、晴れて『XXX』がリリースされたわけです。考えれば考えるほど意義深いアルバムです。

また、本曲には、TOTOにも在籍したジョセフ・ウィリアムズがバック・ヴォーカルで参加しています。

ところで、ジェイソンは、この曲を共作した、グレッグ・バーンヒルとデニス・マトコスキーの3人で撮影したビデオを自身のmyspaceで公開してくれています(2007年3月撮影)。ぜひご覧になってみてください。

歌詞

03
CAROLINE
キャロライン
JASON SCHEFF CHAS SANDFORD
シカゴ19』の一部の曲をプロデュースするなどシカゴと縁のあるチャズ・サンフォード(“D”は読みません)が久々に登場。ジェイソンと本曲を共作しています。

この曲は、2005年11月4日、カナダのラマ(トロント)公演において初披露されました。この日、多くのファンは、もちろん、同年9月から話題に上っていた"FEEL"を聴くのを楽しみにしていました。ところが、上記のようにまったく別の新曲を耳にすることになり、驚きに驚いたようです。

さらに、笑えるのが、ロバートがこの曲をライヴで紹介するとき、「これはジェイソンが奥さんのために書いた曲です」というMCを行っている点。ちなみに、ジェイソンの奥さんの名前はトレイシーです。たしかに、ミドル・ネームの可能性もありますけど。。。

ジェイソンの強烈なシャウトで始まる本曲のインパクトには凄まじいものがあります。ライヴでもイントロなしでいきなり歌唱に入るようです。

しかも、≪Caroline, Caroline≫というコーラスは、迫力がありつつ、どこか爽やかで心地良い感じを与えてくれます。晴れやかと言っていいかもしれません。

また、全体的にループする形で構成されている点が特徴的です。

曲の解釈は人によって分かれるかもしれませんが、私自身はシンプルに受け取りました。すなわち、人の事は気にせず、ポジティヴに行こうよ!という明るい歌だと思いました。

なお、この曲には、TOTOのボビー・キンボールがバック・ヴォーカルとして参加しています。

歌詞

04
WHY CAN'T WE
ホワイ・キャント・ウィ
BILL CHAMPLIN JAY DEMARCUS JASON SCHEFF CHAS SANDFORD
シカゴの曲に女性ヴォーカリストがデュエット参加!

歴史を紐解くと、女性ヴォーカリストといえば、やはり、『シカゴ XI』(77年)の"TAKE ME BACK TO CHICAGO"で共演したチャカ・カーンがすぐ想い起こされます。しかし、彼女のヴォーカルはクライマックスで鮮烈な印象を残すものの、“単独でデュエットに参加”したというのには難しい面があります。むしろ、“コーラス参加”というべきでしょう。この点で、『シカゴVII(市俄古への長い道)』(74年)の"SKINNY BOY"に参加したポインター・シスターズ、同"MONGONUCLEOSIS"のダイアン・ニニ、ジュリー・ニニらも共通しています。もっとも、ニニ姉妹についてはいまだにどこで歌って(?)いるのか判然としませんが・・・。

また、直近では、メンバーの子どもたちが『シカゴ25〜クリスマス・アルバム〜』(98年)の"CHILD'S PRAYER"においてメイン・ヴォーカルを取っています。ただ、これを“デュエット”と呼ぶに相応しいかは微妙です。もっとも、このときは、メンバーのビル、ジェイソン、リーがバック・ヴォーカルを務めていましたから、デュエットといえないこともないでしょう。

但し、一般的な感覚を基準にすると、“厳格な意味での女性ヴォーカリストとのデュエット”は、今回のこのシェリー・フェアチャイルドの例が初と言って妨げないと思います(違ってたらすいません・・・)。

さて、このシェリー・フェアチャイルドですが、彼女は、新進気鋭の女性カントリー・ヴォーカリストです。昨年2005年の春から夏にかけて、ラスカル・フラッツのツアーでオープニング・アクトをこなしていました。これは、シカゴがラスカル・フラッツのジェイ・ディマーカスと『XXX』のレコーディングを一応終えたばかりの時期と符合します。おそらくは、このようなカントリー畑の縁で本曲のデュエット参加という形につながったものと思われます。


歌詞から来る曲のイメージは次のようなものでした。

予期せぬ転機にさしかかった2人。別れてもお互いのことが片時も頭から離れないという状態。≪人々は前触れなく恋に落ちては破れると言うわ。彼らにもセカンド・チャンスが与えられるというのに、私たちがやり直せないなんてことがあるかしら?≫というサビがとてもしっとりしています。

シェリーの透明感あるヴォーカルは、とてもみずみずしく、爽やかな風のようです。新世紀のシカゴに相応しい人選ですね!

05
LOVE WILL COME BACK
ラヴ・ウィル・カム・バック
JASON SCHEFF JAY DEMARCUS CHAS SANDFORD
壮大で力強いラヴ・バラード。

自分の元を去った彼女。しかし、彼女を奪った男は虚実の塊だった。結局、傷心する彼女・・・。

≪でも、もう1人、ここにキミがドアを開けるのを待っている男がいるんだよ。もし、キミが信じれば―――、愛は戻って来る≫というサビに入る前の劇的な曲調展開に圧倒されます。私のファースト・インプレッションはこの曲でした。

ジェイソンとリード・ヴォーカルを分け合うのは、ラスカル・フラッツのヴォーカリスト、ゲリー・リーヴォックス。高く特徴的な声質を持ったゲリーは、見事にシカゴの中に溶け込んでいます。ジェイ・ディマーカスによる、この辺りの滑らかなプロデューシングには頭が下がるばかりです。

曲全体を通じて貫かれているテーマは、“信じること”。≪キミが唯一の方策を見失ったと思ったとき、本当に必要なのは少しでもいいから信じることなんだ!再び愛をキミの元へ。さあ、もう一度やり直そう!≫という締め括りは、ありがちではありますが、あまりにも感動的!!

ところで、ジェイソン・シェフのブログによれば、"KING OF MIGHT HAVE BEEN"同様、この曲も、前作『ラヴ・ソングス』に付加する新曲としてジェイソンたちが製作していたものだということです。

なお、本曲は、2006年3月後半にシカゴのライヴでセットリスト入りを果たしています。ゲリー・リーヴォックスのパートは、ロバート・ラムやキース・ハウランドが交互に担当しているようです。

ちなみに、本曲"LOVE WILL COME BACK"のチャート成績は、以下の通りです。

ビルボード、アダルト・コンテンポラリー・チャート
「Adult Contemporary」 最高位第38位
「Hot Adult Contemporary Tracks」 最高位第21位(7月22日、29日付)

ラジオ&レコーズ、アダルト・コンテンポラリー・チャート
「AC」 最高位第21位(7月14日付)

歌詞

06
LONG LOST FRIEND
ロング・ロスト・フレンド
JASON SCHEFF JAY DEMARCUS BRETT JAMES
静寂感のあるイントロ。

≪long lost friend≫というと、通常は、長年行方不明の友達ということになりますが、作者の意図は、≪初めて会ったけど、なぜか長年友達だったみたいに思える、そんな理想の人≫くらいのところにあるのではないでしょうか。少なくとも、この曲の中では、いわば意中の人に出会ったことの喩えとして用いられているように感じます。

≪僕たちが出会ったあの瞬間。なんか昔なじみみたいに感じたよね。千年も前から知っているかのようだったよ。キミの瞳の中に、長年求め続けてきた光を見つけたんだ≫。

≪心の奥底にあった寂しさもすっかり消え去った。ベイビー、今はキミがここにいる。それが実によく分かるんだ≫。

≪今はキミがここにいる。探し物が見つかったよ≫。

結論として、とてもハッピーな曲に捉えました。


なお、共作者の1人ブレット・ジェイムズは、かつて自らのアルバムをリリースしたこともありますが(95年)、近年はもっぱらカントリー畑の作曲活動をしている音楽家です。中でも、昨年2005年デビューした、アメリカン・アイドル出身のキャリー・アンダーウッドに提供した"JESUS, TAKE THE WHEEL"は、まさにこの『XXX』の発売の前後を通じて、ビルボードのHOT 100においてスマッシュ・ヒットを記録していました。

07
90 DEGREES AND FREEZING
90ディグリーズ・アンド・フリージング
ROBERT LAMM JASON SCHEFF JAY DEMARCUS BRETT JAMES
今回、ロバートがこの『XXX』のために供出した作品は以下のような楽曲でした。

LIVE IS ALIVE (LAMM / McMAHON)
TRIPPY DAY (LAMM / VAN EPS)
LOVE WON'T CARE (LAMM / McDONALD)
I CONFESS (LAMM / LINDERMAN)
SET ME FREE (LAMM / VAN EPS)
HOME (LAMM / DeMARCUS / SCHEFF / JAMES)
OUT OF THE BLUE (SCHEFF / PESCO / LAMM)
COME TO ME, DO (LAMM)
90 DEGREES AND FREEZING (LAMM / JAMES / DeMARCUS / SCHEFF)

ご覧の通り、このうち、最後の2曲がアルバム入りしたというわけです。それ以外の曲は、ロバートの新作ソロに採用される可能性が高いので、ここで悲観する必要は全くありません。

一方、タイトルについて。

華氏90度というと、摂氏では約32度。≪freezing≫との対比で言えば、もっと極端な高気温を想像しただけに、あれっ?大した温度でもないゾ・・・という戸惑いも生じました。おそらく、高温から凍結という急激な温度低下を引き合いに出して、心理状態の落ち込みようを表したかったのだと思いますが・・・。

その証拠に、この曲の主人公は、恋人に縁を切られ、路頭に迷います。この悲しい事実と好対照に、周りの人々は幸せそうだし、天気も快晴・・・。≪こんな良い日に、なぜ僕1人だけ寒い心地でいるんだろう?≫とは、主人公のギャップ感を実に巧みに演出したセリフですね。

また、この曲は、洗練された音作りであること、初っ端からブラスがガンガン利いていること、展開にメリハリがあることなどから、どこか『シカゴV』の"NOW THAT YOU'VE GONE"を彷彿とさせます。

なお、本曲においても、"LONG LOST FRIEND"に惹き続き、ブレット・ジェイムズが共作者として加わっています。

歌詞

08
WHERE WERE YOU
ホエア・ワー・ユー
JASON SCHEFF BILL CHAMPLIN JAY DEMARCUS
≪今までどこにいたんだい?(=キミみたいな娘がいるなんて知らなかったよっ!)。他の娘を追っ掛けている場合じゃなかった。キミと恋に落ちるべきだったんだ!!≫

≪でも、今じゃ遅すぎるんだ!僕のハートは正直なんだ。だから、それをひた隠しして、キミを夢見ているだけさ≫

≪ああ、どうすればいいか分からない!≫

上記の歌詞から、大体内容の想像が付くと思います。青年が陥りそうな恋の妄想というか、なんというか・・・(笑)。

ジェイソンとビルが織り成す駆け足的なコーラス・ワークは、若者らしい恋の悩み方、あるいは、この恋の行方の分からなさをより適切に表現しています。

09
ALREADY GONE
オーレディ・ゴーン
BILL CHAMPLIN GEORGE HAWKINS, JR.
気ままな女性に振り回され、捨てられたことを認めたくない男の物語。ほとんどヤケ酒状態にあるようです。

いずれにしろ、ビルの大好きなR&Bテイストをふんだんに盛り込んだ軽快なナンバーです。

なお、歌詞の中に≪Thank you very next≫という一節が出てきますが、ビルによりますと、これは、ドラマーのトリス・インボーデンと、この曲の作者であるジョージ・ホーキンズJrの2人に対する謝辞を意味しているそうです。

歌詞

10
COME TO ME, DO
カム・トゥ・ミー、ドゥ
ROBERT LAMM
ロバートの持ち味であるファンキー・テイストが遺憾なく発揮された作品。

この傾向はソロ・アルバムにもハッキリと表れていました。間違いなく、『マイ・ネイバーフッド』(93年)収録の"MY NEIGHBORHOOD"のノリですし、『SUBTLETY & PASSION』(2003年)で見せたブラジリアン・ポップスの要素も盛り込まれています。また、『TOO MANY VOICES』(2004年)における"LOVE YOU TONIGHT"の流れなども汲んでいると言っていいでしょう。さらには、遠く、『シカゴVII(市俄古への長い道)』(74年)あたりのラテンのリズム感、開放感、軽快感なども彷彿とさせます。プロデューサーのジェイ・ディマーカスは、80年代のシカゴから入ったわけですが、それにしても、本当にツボを押さえているなあ、と感心しきりです。ファンとしては実にありがたい人選です。

今ひとつの特徴は、歌詞が短文で綴られている点。しかも、同じフレーズが繰り返されています。

この特徴は、ファースト・ソロ『華麗なるロバート』(74年)の"SOMEDAY I'M GONNA GO"や、『未だ見ぬアメリカ(シカゴVIII)』(75年)のボーナス・トラック"BRIGHT EYES"などに通ずるものがあります。

そして、何より、この曲が愛妻ジョイ・ラムに捧げられたという分かりやすさ!

≪さびしいの?ブルーなの?疲れたの?それなら、僕のところへおいで、さあ!リフレッシュさせてあげよう。それとも、僕の方から行ってあげようか?≫

全国の頑張るお母さん方にも捧げられているような歌詞ですね♪

歌詞

11
LOVIN' CHAINS
ラヴィン・チェインズ
JAY DEMARCUS MARCUS HUMMON
見事なオチが付いている曲。

遠くの地で、1人でやっていけると踏んだ俺は、彼女の下を去った。

なのに、寝ても覚めても、思うのは彼女のことばかり。

どうやら、≪お前との愛の鎖を断ち切れそうにもない≫。

そこで、元の場所に帰ってみた。

ところが、≪旧友が言うんだ。「彼女は行っちまったよ」と・・・≫。


作者は、ジェイ・ディマーカスとマーカス・ハモン。後者についてはまだ調べていません。

それにしても、この2人の作詞センスには実に素晴らしいものがあります。

西と東、考えの浅はかな男とたくましい女、青い空と青くない空といった対比構造は見事。

前半では、思い上がった自分が西に去り、そこには、青い空と広々とした空間が待っていました。

後半では、思い直した自分が東に帰って来ます。しかし、女性はたくましいもの。彼女はアホな男に見切りを付け、すでに自分の新しい人生を切り拓いていました。あ〜、2度とこんな失敗はしないぞ!ここでお前の亡霊と共に過ごさなければならないなんて!それも、≪この空が青くなくなるまで≫(=ありえない)・・・とは遅きに失した感。

歌詞

12

BETTER
ベター

BILL CHAMPLIN CHAS SANDFORD
本アルバム中、一番意味を取りにくかった曲。

日々より良くする気持ちを心掛けていないと、お互い魔が差すこともあるよ、くらいのニュアンスでしょうか。

いずれにしろ、ブラスも利いて、ビルらしいとてもファンキーなナンバーに仕上がっています。

13

FEEL (The Horn Section Mix)
フィール (ホーン・バージョン)

DANNY ORTON BLAIR DALY

1曲目のシングル・バージョンに対して、こちらはアルバム・バージョン。

このアルバム・バージョンの方がホーン付きです。また、後半の≪Feel......≫という部分に係るコーラスが存在しています。

とにかく、この"FEEL"という曲は、稀に見る傑作です。内容も人類愛を歌ったものと私は解釈しています。

そう考えますと、エンディングを飾るプログレ調のホーン・アレンジは、壮大で感動的なクライマックスを暗示させる意味合いがあるように思えてきます。このあたりは、さすがジミー・パンコウ、面目躍如!といったところです。

つまり、未来は明るいんだよ!生身の人間らしく行こうよ!という実にヒューマニズムあふれる歌詞、そして、音作りだと感じました。

まさに、21世紀のシカゴに相応しい傑作です!

歌詞