ディスコグラフィ   ロバート・ラム(01)

SKINNY BOY (1974/9)
ROBERT LAMM

曲目 華麗なるロバート
ロバート・ラム
総評

試聴♪

Produced by ROBERT LAMM
cf. 上記アルバムは、2006年5月にボーナス・トラックを追加して、 『SKINNY BOY 2.0』(左画。デジパック)として再発されました。今のところ、CDBabydisk unionさんが主な販売サイトとなっています。

なお、各種販売サイトにおけるご購入にあたっては、「発売日(2006年5月以降)」と「ボーナス・トラックの有無」をご確認ください。
また、場合によっては、アルバム・タイトルの後に「2.0」と表記されていることが目安となります。

曲目 <ボーナス・トラックの邦題は単純にカタカナ表記にしてあります>
01 TEMPORARY JONES 気ままなジョーンズ
02 LOVE SONG ラブ・ソング
03 CRAZY WAY TO SPEND A YEAR うつろな気分
04 UNTIL THE TIME RUNS OUT 時は過ぎ行く
05 SKINNY BOY ママが僕に言ったこと
06 ONE STEP FORWARD TWO STEPS BACK 一歩進んで、二歩さがる
07 FIREPLACE AND IVY 暖炉と蔦(つた)
08 SOMEDAY I'M GONNA GO どこかへ行きたい
09 A LIFETIME WE 人生・・・・・・それは僕ら
10 CITY LIVING 街の生活
11 CRAZY BROTHER JOHN 気違いジョンの物語
<再発盤ボーナス・トラック>
12 LOVE SONG
(Hip Hop Shuffle Instrumental)
ラヴ・ソング (ヒップホップ・シャッフル・インストゥルメンタル)
13 SONG FOR RICHARD AND HIS FRIENDS (Jazzy Trio w/Vocal) リチャードと彼の友人達に捧げる歌
(ジャズ・トリオ・ウィズ・ヴォーカル)
14 SING TO ME LADY シング・トゥ・ミー・レイディ
15 THE DOOR ザ・ドア
16 SOME OF WHAT

サム・オブ・ホワット

17 WHERE YOU THINK YOU'RE GOING ?

ホエア・ユー・シンク・ユア・ゴーイング?

総評

ロバート・ラム初のソロ・アルバム。シカゴに在籍しながら並行製作したものです。

ロバートは、グループの活動とは別に、早くからこのソロ・アルバムの構想を練っていたようですが、実際に取り組むようになったのは、おそらく72年頃ではないかと推測されます。この72年近辺は、シカゴにおいてロバートの占める地位が増大した時期でもあり、創作意欲、曲ともに、豊潤だったことが想像されます。

内容はロバートらしく、事実事象に基づいた作風が大いに展開されています。とくに、私生活と仕事を対比した楽曲が多い気がします。これらをやさしく肉付けする音響面は、70年代中期の甘く切ないノスタルジック・テイストのはしりと言ってもいいでしょう。

プロデュースはロバート自身。大半も彼の書いた曲です。ピアニストの彼は、オーケストラとの共演を軸に、鍵盤を縦横無尽に駆使します。この中では、シカゴの特徴であるブラスは一切用いられていません。シカゴからは唯一、テリー・キャスがベースとアコースティック・ギターで参加しているだけです。

つまり、これぞロバート・ワールド!といったところでしょうか。

このように、音楽的には高い評価を勝ち得た本作でしたが、反面、商業的にはほとんど成功を収めませんでした。なぜなら、よく言われるように、当時のレーベル会社であったコロムビア側が、ロバートの脱退を恐れて、このソロ・アルバムのプロモーションを後押しなかったからです。デビュー以来、シカゴのヒット曲の大半を手掛けてきたロバートをここで失うのは大変な痛手と考えたのでしょう。これは、あくまでも“うわさ”として吹聴されましたが、ロバート本人はもちろん、ジェイムズ・ヴィンセントをはじめとする製作関係者はみな、たしかにそう感じていたようです。


なお、2006年5月、ロバートは前々からの約束通り、このアルバムをボーナス・トラック付きで再発してくれました!

外装はデジパック仕様です。リマスター表示はありませんが、録音レベルは多少上がっている気がします。また、細かい楽器の音も明瞭に聴こえますし、全体的に音の広がりも感じます。

とりあえず、CD Babyにて発売が始まっています。

しかも、そのボーナス・トラックの中には、1972年の麻薬撲滅キャンペーン・ソング、"WHERE YOU THINK YOU'RE GOING ?"も含まれています。これが世界初CD化。従前のロバートの様子からしても、これだけはありえないことだと思っていました。いったい誰が予想しえたでしょう?とにかく、仰天。これ以上ないサプライズです!!!

01

TEMPORARY JONES
気ままなジョーンズ

ROBERT LAMM ROBERT RUSSELL

本アルバムで唯一、他人との共作品。

夢みたいなことばかり言っているジョーンズ。世間は、アイツを「ずれた人間」と呼ぶが、俺はそうは思わない。むしろ、ヤツがうらやましいよ、というあらすじ。

≪時が無駄に流れていくだけで、自分は日常に縛りつけられている。そのことの方がよっぽどクレイジーだよ≫という歌詞。デビュー以来、休むことなしに疾走してきた売れっ子ミュージシャンならではの苦悩が見え隠れします。

幸福感の相対化もさることながら、一般人にしてみれば、高いレベルでの「隣の芝生は青い」的な発想かな、とも思ってしまうところ。

とはいえ、それはそれで心の叫びが伝わってきます。甲斐あって、シカゴはこの70年代中期に華々しく黄金時代を迎えることになります。

なお、ストリング・アレンジメントは、のちにシカゴの『未だ見ぬアメリカ(シカゴVIII)』などでも共演するパット・ウィリアムスが担当しています。

02

LOVE SONG
ラブ・ソング

ROBERT LAMM

初期のシカゴのアルバムにおいては、ロック調の楽曲が求められていたせいか、本曲のように甘く囁く形のバラードが取り上げられる機会はあまりありませんでした。

しかし、これぞロバートの真骨頂とも言うべき、70年代ロマンティシズムあふれる傑作だと思います。ライノの再発盤『未だ見ぬアメリカ(シカゴVIII)』にボーナス・トラックとして追加された"BRIGHT EYES"などは、明らかにこの"LOVE SONG"の作風を受け継いでいます。

さて、曲の内容ですが、とにかくキミが好きだよ、という予想通りのものです。

本当に好きな女性に出会った、その幸せを包み隠さず表現した良曲で、結婚式などには打ってつけの傑作です。また、繰り返し使われる≪I...can only say that I...I like you≫というフレーズがとても印象的です。

アコースティック・ギターはアラン・デカルロ。ドラムスはロス・サロモーン。それぞれ、かつて“シカゴの弟バンド”というコピーで登場したマデュラの一員。マデュラとは、デヴィッド・“ホーク”・ウォリンスキー(キーボード)、アラン・デカルロ(ギター)、ロス・サロモーン(ドラムス)のトリオ編成からなるバンド。シカゴの弟分として扱われたのは、ジェイムズ・ウィリアム・ガルシオがプロデュースを手掛けたことのほか、シカゴと同じく、2枚組でデビューという経歴面での影響が大きいと思われますが、実際にも、彼らはシカゴのメンバーとも懇意で、グループとして例の映画『グライド・イン・ブルー』にも出演しています(バンドの演奏シーンがそれ)。中でも、デヴィッド・“ホーク”・ウォリンスキーは、とくに70年代後半のシカゴの曲を多く共作していたりして、そのマルチな才能を如何なく発揮しています。

ちなみに、ロバートは、4作目の『SUBTLETY & PASSION』の製作を終えた数月後、自身のフォーラムにて、アラン・デカルロの印象とともに、「この"LOVE SONG"をホーン・バージョンとしてリメイクするのもいいな」、なんて主旨のことをも語っています。

03
CRAZY WAY TO SPEND A YEAR
うつろな気分
ROBERT LAMM

自分でも何をしているか分からない日々。落ち込んでいるわけでも、無為無策なわけでもない。自分を取り巻く周りの情景は毎日確実に変化する。しかし、そんな光景を目の当たりにして、≪僕は一体ここで何をしようというのだろう?≫という疑問を自分自身に対してぶつける主人公。まさに≪時を無駄に過ごしているクレイジーな状態≫。ロバートが接する日常の切り方は、断片的ながら分からないこともない、というちょっと不思議な空間を提供してくれます。

音響面では、単調なピアノのリズムがより一層この不思議な空間を盛り立てるのに貢献しています。また、この曲でも、1曲目の"TEMPORARY JONES"と同様、パット・ウィリアムスがストリング・アレンジメントを手掛けていると思われますが、その演奏は、この主人公の倒錯的な精神状態の不安定さを、実に的確に表現しえていると言えるのではないでしょうか。

なお、歌詞をよく見ると、最初から最後まで、正確ではないにしろ韻を踏んでいることに気がつきます。

04

UNTIL THE TIME RUNS OUT
時は過ぎ行く

ROBERT LAMM

妻や子供たちとの別離が描かれています。この時期、ロバートに実際に子供がいたかどうかは分かりませんが、設定自体はおそらく創作的なものではないでしょうか。

家族と離れ離れになった主人公はひとりぼっちになりますが、彼には仲間がいてくれます。かつて知った古き良き仲間たちが。そんな仲間と≪時が果てるまで≫過ごせばいいさ、というなぐさめの歌のようです。

ところで、邦題の"時は過ぎ行く"は、このなぐさめの気持ちを十分言い表していない気がします。

"時は過ぎ行く"だと、さびしい気持ちもいつか時が癒してくれるさ、といったニュアンスを与えますが、むしろ、この主人公は、さびしい気持ちを紛らすためにただ単に自堕落でなげやりな生活を送っている、という状況にあるのだと思うのです。

つまり、このままずっと仲間といればいいや、という惰性まじりの気持ちであって、いつか時が自分の気持ちを癒してくれるだろうということにはとくに重点を置いていないような感じがします。もちろん、心の底にはそういった気持ちがあるのでしょうけど。

05

SKINNY BOY
ママが僕に言ったこと

ROBERT LAMM

このソロ・アルバムより一足先に発売されたシカゴの『シカゴVII(市俄古への長い道)』にも収録されていた曲。

シカゴ版とこのソロ版とを比べてみると、ソロ版の方は、全体が40秒ほど短く、最後のオマケ的なベース・ラインがない、シカゴ版に見られた中盤以降(例:1分9秒〜)のホーンがない、などの相違があります。従って、シカゴ版の方が若干華やかに、反面、ソロ版の方は地味に、それぞれ映るかもしれません。

なお、両バージョンにおいて、ベースはテリー・キャスが弾き、ドラムスもマデュラのロス・サロモーンが叩いています。ゴスペル風のコーラスを浴びせているポインター・シスターズも両方のバージョンに変わらず登場しています。歌詞は、多少の聴き取り違いがある程度で、まず同じものと言っていいでしょう。

その歌詞ですが、邦題通り、≪ママが僕に言ったこと≫が中心。そして、それを素直に聞いてきた男が今になって思うこと、の二大柱で構成。

母親の言い付けは、≪借金はダメよ。時間に遅れてもダメ≫といった他愛ないものから、≪他人を愛しなさい。そうすれば、愛は必ずあなたのもとに戻ってきます≫というヒューマニズムあふれるものまで実に多彩。

一方、ガリガリのやせっぽっちだった少年は、やがていろんな人生を経験して、大人になり、自我を確立します。≪もっと自分のために生きなきゃ!≫と。

しかし、彼はとてもわきまえていて、自分自身のためには、とにかく今を頑張って、享楽は後回しにしよう、という何ともストイックな方向を目指します。この辺が素晴らしいというか何というか・・・。彼がこれに反発するというオチを期待した人たちをガッカリさせたかもしれません。

でも、考えてみれば、『シカゴVII(市俄古への長い道)』の"(I'VE BEEN) SEARCHIN' SO LONG"において、ジェイムズ・パンコウが70年代の若者のテーマだった“自己発見”を表現したように、同時期に製作された、この"SKINNY BOY"の中で、ロバートがしっかりした若者像を描写することは、それはそれで理解できることなのです。

06

ONE STEP FORWARD TWO STEPS BACK
一歩進んで、二歩さがる

ROBERT LAMM

徐々に湧き上がってくる前奏。やがて、テリー・キャスのベースが活気付き、軽快なメロディへと移行するポップ・ソング。

しかし、歌詞の内容は、虚構の世界をあざ笑うかのような興味深いものとなっています。そこには愛も友達もなく、ただあるのは人生や世間の愚かさ加減。ロバートは、実証例を挙げて、その愚かさを歌い上げています。

ところで、タイトルともなってる≪One step forward, Two steps back≫というフレーズ。一見何のことか、よく分かりません。もちろん、直訳すれば、≪一歩進んで、二歩さがる≫ということになるのでしょう。

しかし、ここには、ロバートの哲学的暗喩が込められているような気がしてなりません。

曲の後半の歌詞には、≪素晴らしいと思ったものもすぐにすたれる。だから、新しい観点だって次第に古くなっていくのさ≫とあります。つまり、時が刻々と過ぎていくように、人の思考も、思い付いた瞬間からすでに古くなり始めている、というわけです。いわば、宿命的な時間の流れ、ないし、世界の変容するさまを表現したものではないか、というのが私なりの解釈です。

そうすると、≪一歩進んで、二歩さがる≫という後ろ向きな歌詞にも納得がいきます。すなわち、いくら頑張って前に進もうと試みても、結局、後から見れば、実際には少しずつ後退しているんだよ、というロバートの逆説的発想が露見しているものと見ているのですが、さて、みなさんの解釈は如何に?

07

FIREPLACE AND IVY
暖炉と蔦(つた)

ROBERT LAMM

全体の構成が“私生活”と“仕事”という好対照なものに二分されています。

前半は、表題通り≪暖炉と蔦≫がある家の話。この家は、≪コーヒーを飲んだり、おしゃべりをしたり、夢を語り合ったりする特別な場所≫。落ち着ける場所だから、曲調もゆっくりです。

しかし、音楽を仕事にしてから、≪たくさんのことが(矢継ぎ早に)展開し出す≫というのが後半のストーリー。それに合わせて、全体のテンポが加速し、この急展開に臨場感を与える役割を果たしています。≪歌を歌い、曲を演奏するため、各地を駈け回る生活≫が始まり、≪人々と親しくなったり≫もします。

しかし、≪心の中では涙することもあった≫、≪家を空けたくないのに、行かなきゃならない≫、≪家から離れるなんて、実に馬鹿げたことさ≫と、心情を吐露する一面も。≪時が訪れたとき、僕は何も言うことはなかった≫というリフレイン部分の台詞は悲痛ですらあります。

家族と音楽の間を去来するロバートの複雑な思い。それらは、このように歌詞や曲調に十二分に反映されていると言っていいでしょう。

なお、この曲には、テリー・キャスがアコースティック・ギターで参加。1分22秒あたりにかぶさるバック・ヴォーカルはテリーでしょうか。それとも、ロバート自身のセルフ・コーラス?クレジットに書いていないので、ちょっと確信が持てません。

08

SOMEDAY I'M GONNA GO
どこかへ行きたい

ROBERT LAMM

実にシンプルな詩。ロバートの作品の中でも、さすがにこれだけシンプルな歌詞の羅列はそうはないでしょう。

≪いつか行くつもりさ。いつか行くんだ。遠くに、遠くに、遠くに―――≫。≪キミは過去を見たいと思ったことがあるかい?でも、何もなかっただろ?≫。≪キミは逃げ出したり、隠れたり、泣いたりしたことがあるかい?でも、それが何になった?≫。たったこれだけです。

これだけでも、ロバートの強い鍵盤の叩き方、テリー・キャスの重厚なベース・プレイによって、ますます気分を高揚させられるから、不思議です。

とてもキャッチーな曲です。こういうのは大好きです!

09

A LIFETIME WE
人生・・・・・・それは僕ら

ROBERT LAMM

LPのときは、6曲目の"ONE STEP FORWARD TWO STEPS BACK"からB面に入るわけですが、このB面では、順に、アップテンポ、スロー・バラード、アップテンポときて、本曲"A LIFETIME WE"においてまたスロー・バラードの登場と、おそらくは意識してメリハリを付けた収録構成となっています。

曲は、スウィート・ジャズ。ゆったりとしたテンポの中で、自らの運命が語られていきます。その運命とは、≪キミと一緒にいることだよ、レイディ≫という一文に尽くされています。≪僕らはお互い1つのものになっていくのさ≫、≪人生の春が来ようとしているんだよ、レイディ≫、≪どんなに高いところを目指してるかって?、そんなこと聞かなくていいんだよ≫、≪人生。2人でいることが人生なんだから・・・≫。

歌詞の端々には、≪matinee (=マチネー、芝居の昼間興行)≫、≪rendez-vous (=ランデヴー、逢引き)≫といったフランス語がさりげなく散りばめられており、非常に洒落た感じがします。

また、興味深いことに、2節目の≪You gave me you≫という部分が、ロバートのオフィシャルでは、≪You sweet zazou≫となっています。実は、この≪zazou≫というのもフランス語でして、≪ジャズ狂≫とでも訳しますか、もともとは、1940年代から50年代にかけて、パリで、もっぱらアメリカ製ジャズに興じていたフランスの若者たちのことを指すようです。日本語としても、立派に≪ザズー≫で通じるようです。この中でも象徴的な存在は、何と言っても、小説家でもありジャズ・トランペッターでもあるボリス・ヴィアン。この時代における、いわゆる才人です。ロバートも、このボリス・ヴィアンのことを思い浮かべて、ペンを走らせたのでしょうか―――。

ところで、この≪zazou≫という言葉は、当時実在したブティックの名前とも一致します。そこでモデルをしていたのが、他ならぬジュリー・ニニだったそうで、ロバートとしては、こちらの意味を強く意識していたのかもしれませんね。

10

CITY LIVING
街の生活

ROBERT LAMM

予想通り(?)、スローな前曲に続いては、少し泥臭いハード・タッチの本曲がお目見え。

≪CITY LIVING≫というと、小奇麗で優雅な生活を想像させますが、ロバートの住む街は、≪騒音もひどいし、車も多い。しかも、通りは汚いときてる≫とウンザリの種ばかり・・・。

"SKINNY BOY"に続き再度登場のポインター・シスターズが乱れ飛ぶような豪快なコーラスを浴びせ掛け、この街の混沌とした生活ぶりを見事に表現しています。

一方、スワンプ調のギター・ワークをこなすのはジェイムズ・ヴィンセント。うねり狂うギターは、街の泥臭い雰囲気を引き立てるのに最適です。但し、このギター・ワークは、オーバーダブ、すなわち、後付けだということです。

そのジェイムズ・ヴィンセントは、シカゴ生まれのギタリスト。その腕を買われて、ピーター・セテラがシカゴ加入前に在籍していたジ・エクセプションズに途中から参加します。

このジ・エクセプションズは、最終的に、オリジナルの楽曲を製作したいと願うジェイムズ・ヴィンセントたちと、せっかく手にした今の安定した生活を捨てる必要はないと主張するピーターとの対立が表面化し、解散してしまいます。ジェイムズ・ヴィンセントは、その自伝の中で、このとき、「ピーターが、数ヶ月もすねて雲隠れしてしまった」と語っています。みんな若かったんですね・・・。

この頃、ザ・ビッグ・シングというバンドのテリー・キャスと親交のあったジェイムズ・ヴィンセントは、彼らがベース・プレイヤーを探しているという話を聞き、タイミング良く、1人浮いてしまったピーターのことを紹介します。前後して、ピーターの方も、このビッグ・シングのことは知っていたので、自らアプローチするようになります。そして、ピーターが加入した、このバンド、ザ・ビッグ・シングこそ、のちの我らがシカゴだったというわけです。

ところで、ジ・エクセプションズの活動に見切りをつけたジェイムズ・ヴィンセントは、グループの残りのメンバーであった、ビリー・ハーマンとジミー・ナイホルトを連れ立って、エイオータ(AORTA)という新しいバンドを結成します。しかし、その活動も長くは続かず、70年代に入ると、ジェイムズ・ヴィンセントら各人は、主にスタジオ・ミュージシャンとしての道を歩み始めることになります。

このような経緯を経て、ロバート・ラムのお声掛かりを得たジェイムズ・ヴィンセントは、本作ソロ・アルバムの製作に参加したのでした。

具体的にいつから2人が知り合いだったかまではさすがに分かりませんが、上述のように、ジェイムズ・ヴィンセントは、同じシカゴを拠点にしていたミュージシャンとして、テリー・キャスやダニエル・セラフィンと親交があったということですから、きっと彼らを通じて、お互い顔見知りだったのでしょう。

ちなみに、ジェイムズ・ヴィンセントはメールをしますと、実にマメに返信をくれます。

また、ロバートは、自己のフォーラムにおいて、折につけ、このジェイムズ・ヴィンセントのサポート並びに演奏について触れることがあります。そこでは、本当にリスペクトしている様子が伝わってきます。

ジェイムズ・ヴィンセントのオフィシャル・ウェブサイト
11

CRAZY BROTHER JOHN
気違いジョンの物語

ROBERT LAMM

アルバムの最後に来て、すごい曲に出会った・・・という感じです。

邦題通り、物語仕立ての歌詞。はじめは、これがロバートの詩!?と思うくらい、本当に不思議な感覚に襲われました。それほど変奇的というか、ロバートらしくない作風なのです。唖然としてしまうほどすごい展開なのです。

それもそのはず、ロバートのオフィシャル・ウェブサイトによれば、この曲は、イギリスの詩人チョーサーの『カンタベリー物語』に題材を求めたものであるとか。なるほど、道理で・・・。

ところが、実際の『カンタベリー物語』には、本曲の歌詞を想起させる話は収録されていないのです。これまた実に不思議。まさにロバート・ワールド。

但し、この『カンタベリー物語』は、中世(14世紀後半)の様々な逸話を編纂したものであり、本曲のようなエピソードも、雰囲気としては物語中に追加できそうな話にはなっています。でも、やはり、ロバートの記憶違いであるような気がしてなりません。人をかついでいる感じもないですし・・・。

さて、このように、ある意味興味を惹く歌詞ですので、本来は、御自身で訳をご覧になるのが一番だと思います。その方がお楽しみいただけること請け合いです。

ですから、以下の拙文は直ちにはお読みにならないことをおすすめ致します


あらすじはこうです。

ある紳士が3人の女性に求婚する。彼はめでたくそのうちの1人から快諾を得る。

相手となる彼女は、良家の出。その他の家族は、王、王妃、姉のアン、そして、兄のジョン・・・。

彼女は未来の夫に対して、自分の家族に結婚の許しを請うようすすめる。とくに、「兄ジョンに対しては絶対忘れちゃダメよ!兄は・・・ちょっと変わった人で―――」と不安を抱えつつ再三の忠告をする。

ところが、あろうことに紳士はこのジョンへの挨拶を忘れてしまう!

事態を知った姉アンは彼女を連れ出す。兄ジョンから逃れさすために。

しかし、ジョンはこれに気付き、ナイフを携えて彼女を追い掛ける。

そして!物語は衝撃の結末を迎える!

≪彼女は大理石の下に眠る―――≫の一語がそれ。

唐突でもあり、不可解なストーリー。しかし、歌詞から受ける臨場感には鬼気迫るものを感じます。


なお、本アルバムの国内盤LPには、この曲の邦題として、"気違いジョンの物語り"と紹介される一方、歌詞欄の表題には、"気違いジョンの物語"とあり、“り”の文字の存否が一定していません。どちらを採るべきか迷いましたが、当サイトでは、表現上の分かりやすさから、“り”抜き表記を選択してあります。

<再発盤ボーナス・トラック>
12 LOVE SONG (Hip Hop Shuffle Instrumental)
ラヴ・ソング (ヒップホップ・シャッフル・インストゥルメンタル)
ROBERT LAMM
"2曲目"のヒップホップ・バージョン。しかし、インストゥルメンタルです。
13

SONG FOR RICHARD AND HIS FRIENDS (Jazzy Trio w/Vocal)
リチャードと彼の友人達に捧げる歌 
(ジャズ・トリオ・ウィズ・ヴォーカル)

ROBERT LAMM
こちらのバージョン違いとなります。
14

SING TO ME LADY
シング・トゥ・ミー・レイディ

ROBERT LAMM

いよいよ日の目を見た名曲。

未発表曲でしたが、2002年1月、ロバートのオフィシャル・ウェブサイトにて試聴公開が行われていました。

以下は、そのときのロバート本人のコメントです。

この曲は、私がソロの『SKINNY BOY』とシカゴの『VI』か『VII』にとりかかっていた頃の作品です。その頃、私はとても美しい女性に出会いました。その人はピアニスト兼シンガーで、ジャズっぽい曲をレパートリーとしていたのです。私は彼女の魅力に参ってこの曲を書いた、とまあこういうわけです。いえいえ、もちろん、音楽的な浮気心だけでして、それ以上の感情はありませんよ。ですが、この曲は、当時私が付き合っていた女性の感情を傷つけたみたいで、アルバムには収録しなかったのです。ちなみに、曲作りにはテリーと"ホーク"ウォリンスキーが手助けをしてくれました。私の数少ない“パワー・バラード”ですね!


曲は、"LOVE SONG"や"A LIFETIME WE"に通ずる物静かな、内省的路線を継承している感じがします。ただ、本人が“パワー・バラード”と言ってるくらいですから、中身は燃える情熱が込められていたのかもしれません。

この頃の彼の洗練されたポップ・センス溢れる曲は大好きですね。それにしても、ロバートさん、恋の魔法はホドホドに・・・。

なお、2008年以降に、この"SING TO ME LADY"のニュー・バージョンがロバートの新作である、通称“ボッサ・プロジェクト”CDに収録される見込みです。

Yeah yeah yeah yeah

Sing to me lady
Why did it take so long for you to appear

I'd always dream of you
Wondering if there was the chance
Someone like you could be real

Sing to me lady
How did you know a love songs
So sweet to my ears

I've always prayed for you
Searching I look up for your face
Hoping that you would be there

Here we are by chance thrown together
I know the time's not right for you and me

If you wouldn't mind
Spend my time with you
Maybe dreams still come true

If not, there's nothing lost I guess
Because our lives have crossed

I'll be your friend
You can trust me till the end (If you must be in the end)

Sing to me lady
Sing to me lady
Sing to me lady

15 THE DOOR
ザ・ドア
ROBERT LAMM
曲の途中、調子がかなりアップダウンしますが、これはマスター・テープに起因するものだと思われます。CDの個体的欠陥ではありません。

しかし、それを差し引いてもお釣りが来る楽曲です。

Lady now don't be sad
Don't you hide your love away
Won't you please hear what I say
Won't you please come out to play
For a while

If you do
If you can
I will show you our place
Far away from the door that you love(?), wow wow

Lady now don't you cry
Don't you leave your last goodbye
Won't you please begin to try
Won't you please stop being shy
For a while

If you do
If you can
I will show you our place
Far away from the door that you love(?), wow wow

The door's the everlasting door to your love
Had left me wondering why ya even try to help you find your way

Lady now don't be sad
Don't you hide your love away
Won't you please hear what I say
Won't you please come out to play
For a while

If you do
If you can
I will show you our place
Far away from the door that you love(?), wow wow

16

SOME OF WHAT
サム・オブ・ホワット

ROBERT LAMM

以下の聴き取りはまったく自信がありません。

Some of what you say is true
I don't know what to do
All I know things come down my head
And it took me round

Some of what you say is right
I don't know who to fight
All I know things come down my head
And it hurts

Give you let love
And who you think I am?
Then I can't stop to be me

Some of what you do is cool
Sometime you say you boo(?)
And I feel the world go around my head
And incredible sound

Some of what you think is nice
Sometime you pay the price
When you feel the world go around your head
And it hurts

Give you let love
And who you think I am?
Then I can't stop to be me

Some of what you say is true
I don't know what to do
All I know things come down my head
And it took you round

Some of what you take is fine
Sometimes you cross the line
When you feel the world go around your head
And it hurts

Give you let love
And who you think I am?
Then I can't stop to be me

17

WHERE YOU THINK YOU'RE GOING ?
ホエア・ユー・シンク・ユア・ゴーイング?

ROBERT LAMM
まさに、ありえないことが起きました。

この曲は、1972年に、ロバート・ラム麻薬撲滅キャンペーン用に製作したプロモーション・シングルですが、2006年5月の『SKINNY BOY (2.0)』の再発に合わせて、ボーナス・トラックとして追加収録されるに至りました。世界初CD化となります。

このキャンペーンは、テレビやラジオにおいて展開されました。このとき放映されたテレビ・コマーシャルには、ロバートと女性が映っていました。ファンの記憶では、おそらくガールフレンド時代の元妻ジュリー・ニニ(サーシャの母)ではないか、ということです(同じ72年に"ALL IS WELL"が発表されていることなどから考えて、先妻カレン・ラムとはすでに離婚していたと推測されます)。

なお、発売当時の曲名は、≪GOIN'≫ではなく、≪GOING≫という表記でした。一応、ここでは、発表当時の表記に従って記載しています。

バック・ヴォーカルが誰だか分かりませんが、高い声はピーター・セテラでしょうか。この点は、ちょっと自信がありません。


内容は、ひたすら薬物摂取の無意味さを歌い上げています。そして、曲の最後には、堕ち行く者に対するロバートの強固なメッセージが吹き込まれています。

歌詞中、≪Shootin' dope and losin' hope≫の部分は韻を踏んでいます。日本語に訳すと分からなくなってしまうところです。

Runnin' down a dead end street
Where you think you're goin'?

You're playin' odds that you can't beat
Where you think you're goin'?

Shootin' dope and losin' hope
Oh it's such a stupid game

You cannot win
Where you think you're goin'?

This is Robert Lamm, Chicago. A lot of my friends are a lot of your friends. All round any more. Because they've doped. I miss them.(※)


袋小路を駆け降り
キミはどこへ行こうとしているんだい?

絶対勝てない賭けに興じている
キミはどこへ行こうとしているんだい?

ヤクを打って希望を失う
なんて愚かなゲームだ

キミは絶対勝てない
キミはどこへ行こうとしているんだい?

シカゴのロバート・ラムです。私の友達はやがてみなさんの友達になるのです。もうたくさんです。彼らは薬漬けだったのですから。寂しいものです。


※聴き取りにつき、自信がありません。