音源は、一応デジタル・リマスターされています。また、擬似ステレオ化が施されています。もっとも、この擬似ステレオについては、多少違和感を覚える方もおられるかもしれません。
ちなみに、ジェイムズ・ヴィンセントは、『SPACE TRAVELER: A MUSICIAN'S ODYSSEY』という自伝を執筆しています(詳細は、ジェイムズ・ヴィンセントのオフィシャル・ウェブサイト「News / Links」欄まで)。
この著書では、音楽を通じた自らの考えないし半生が描かれています。また、地元を同じくするシカゴの面々との交流についても語られています。しかも、本人曰く、そのほとんどが「今まで書かれたことがないこと」ばかりとのこと。
私も読破したわけではないのですが、たしかに、シカゴをめぐる知られざるエピソードが盛り込まれていると言って妨げありません。それも、青春時代の若さゆえのピーター・セテラとの衝突、妙にウマの合ったテリー・キャスの壮絶死から受けたショック、低調な活動をしていた自分へ親身になってサポートしてくれたダニエル・セラフィンのことなどなど―――、赤裸々な話であるのに、至って淡々と語られているのが印象的です。
ジ・エクセプションズは、カル・デイヴィッド(ギター、ヴォーカル)、マーティー・グレッブ(キーボード、サックス)、デニー・エバート(ドラムス)らが中心となって結成した、地元シカゴのクラブ・バンド。結成は、1961年頃と言われています。当初は、ヴォーカルがカルしかいなかったため、“カル・デイヴィッド&ジ・エクセプションズ”と名乗っていました。
その後、まもなく、ピーター(当時はピートと呼称)・セテラ(ベース、ヴォーカル)が加入。初期の主要メンバーは以上の4人と言ってよく、本CDの1曲目から4曲目までもこの4人を中心に録音されています(1964年)。
1965年になると、肝心のカル・デイヴィッド、デニー・エバートが相次いでバンドを離れ、バンド名も単に“ジ・エクセプションズ”と短縮されるようになります。そして、彼らに代わって新たにメンバーとなったのが、ジェイムズ・ヴィンセント(ギター、ヴォーカル)と、ビリー・ハーマン(ドラムス)の2人。このマーティー、ピーター、ジェイムズ、ビリーというラインナップで録音されたのが、本CDの5曲目から13曲目までです(1966年)。中でも、新加入のビリー・ハーマンは歌えるドラマーでして、メンバー4人全員がヴォーカル・パートを分け合うなど、コーラス・ワークが非常に充実してきます。
最後に、1967年になって、マーティー・グレッブが、"カインド・オブ・ア・ドラグ"(67年)の大ヒットを飛ばした直後のバッキンガムズに引き抜かれると、バンドは新たにジミー・ナイホルト(キーボード)を迎え入れます。そのニュー・ラインナップで吹き込んだのが14曲目から17曲目です(1967年)。この頃になると、演奏テクニック、構成などは飛び抜けてきます。とくに"WHY DO YOU HURT ME (=YOU ALWAYS HURT ME)"と、
"YOU DON'T KNOW LIKE I KNOW"のクオリティの高さには目を見張るものがあります。
さて、本CDは、このようにクラブ演奏を中心にした6年あまりの活動期間中に残された数少ない録音盤の集大成です(なお、ジェイムズ・ヴィンセントによれば、ジ・エクセプションズは、全部で18曲録音しているとのこと)。
ところが、彼らには予算がなかったため、モノラル用のスタジオしか借りることができず、また、中には、1〜2時間で仕上げられたようなケースすらあるそうです。
但し、冒頭にも述べましたが、今回のCD化にあたっては、音源が擬似ステレオ化されており、加えて、デジタル・リマスター処理もなされています。
若き日のピーター・セテラ(20歳すぎ)、そして、地元シカゴを取り巻く多くのミュージシャン(ちなみに、彼らは今でもグループのシカゴと交流があるようです)が明日を夢見て思いを馳せた記念碑的作品集。その大半はカヴァー物ですが、彼らのセンスの選曲の良さに脱帽します。ぜひお手元に。
さて、この後、ピーター・セテラは、方向性の違いや、グループ内の人間関係のいざこざに嫌気がさすようになり、新しい道を模索すべく、のちにシカゴの前身であるザ・ビッグ・シングに加入することとなります(1967年12月)。
一方、マーティー・グレッブは、最近も重要な話題があります。つまり、シカゴのロバート・ラムの新作『SUBTLETY & PASSION』において、"YOU NEVER KNOW THE STORY"をロバートと共作し、旧交を温めていたりします。
また、ジェイムズ・ヴィンセントは、ロバートのファースト・アルバム『SKINNY BOY』の"CITY LIVING"にギターで参加していました。以降も、シカゴの面々とずっと交流があるようです。